【第30回(2018年)介護福祉士国家試験過去問解答・解説】問題58

30-058 Dさん(75歳,女性)は,以前は散歩が好きで,毎日, 1時間ぐらい近所を歩いていた。最近,心不全(heart failure)が進行して歩行がゆっくりとなり,散歩も出かけず,窓のそばに座って過ごすことが多くなった。食事は,すぐおなかがいっぱいになるからと, 6回に分けて食べている。夜,「横になると呼吸が苦しい時があり,眠れていない」という言葉が聞かれるようになった。
Dさんへの安眠の支援に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 寝る前に,肩までつかって入浴する。
2 寝る30 分前に,少量の食事を摂取する。
3 以前のように,毎日1 時間の散歩を再開する。
4 就寝時は,セミファーラー位にする。
5 朝,目覚めた時にカーテンを開ける。

正解:4

【解説】
心不全』とは、心臓が全身に血液を送るポンプ機能(心ポンプ機能)が低下し、体内に血液が十分にいきわたらなくなる疾患です。心臓が悪いために、息切れやむくみが起こるとともに、心臓がだんだん悪くなり生命を縮めます1)

心臓からの血液循環は、心臓から出発して酸素や栄養を多く含む動脈と、全身からの老廃物や二酸化炭素を運びながら心臓に戻る静脈の二種類があり、全身に血液を運ぶ『体循環』肺に血液を運ぶ『肺循環』があります。

・肺循環:右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房
・体循環:左心室→大動脈→全身→静脈→右心房

心ポンプ機能が低下し、血流が弱まると、血液が滞ってしまい、各臓器や細胞に栄養や酸素を届けられなくなります。
左心房の場合、血液が滞って血圧が高まることで、細胞の水分(間質液)が押し出され、胸に水が貯まってしまいます

そのような胸水は、肺胞と毛細血管の間にあることにより、肺胞が毛細血管から酸素を受け取ることができず、結果、呼吸が苦しくなってしまいます。

1=×:入浴は温かさによって血管が拡張して心臓が楽になり、気分的にもリラックスできるため、慢性心不全の人にもおすすめできますが、首までつかると浸水圧がかかり心臓に負担がかかります
また、水温も42度以上となると体に負担がかかるため、お湯は胸の高さまで、水温は40度で10分程度の入浴が適切2-3)とされているので、この選択肢は誤りです。

2=×:就寝前の2時間前に食事をすると体に脂肪(脂質)が蓄積されやすくなり、脂質は血管を詰まった状態=動脈硬化を引き起こす原因となるため4)、この選択肢は誤りです。
なお、塩分の取りすぎは体からの水分排出を妨げるため、注意が必要となります。

3=×:運動により心臓の筋肉を養う血管の血液の流れが良くなり、さらに長期的に行うことで、心臓の機能を改善する効果があると考えられています5)
しかし、すべての心臓病の人が運動をしてよい訳ではなく、運動負荷テストの結果を参考に、その人の心機能に合った強度の運動を行う必要があります5)

本設問では、心不全後に“歩行がゆっくりとなり,散歩も出かけず”にいる状態から、以前と同じ強度の運動を行うことは不適切と考えられるため、この選択肢は誤りです。

4=×:『ファーラー位』とは仰臥位(あおむけ)で上半身を45度程度起こした姿勢=半座位6)をいい、『セミファーラー位』とは仰臥位(あおむけ)で上半身を15~30度程度起こした姿勢をいいます。
90度挙上した姿勢は『座位』となります。

ファーラー位やセミファーラー位の体位では、腹部臓器による肺の圧迫を軽減することから呼吸機能の改善が期待でき、呼吸困難時に有効なポジショニング(体位変換)ですので、この選択肢は正しいです。

5=×:朝、目覚めたときにカーテンを開け、日光を浴びることでサーカディアンリズム(≒体内時計によるリズム)を調整し、不眠・過眠の改善が期待できます7)が、本設問のように呼吸困難が原因とする睡眠障害に日光は関係がないため、この選択肢は誤りです。

参考文献
1)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』.2018年3月
2)日本循環器学会:『心不全』5.心臓に優しい生き方.
3)日本心臓財団:『ハートニュース』.慢性心不全の生活管理?食事と入浴?
4)日本動脈硬化学会:『動脈硬化の病気を防ぐガイドブック
5)日本心臓リハビリテーション学会:『運動療法を紹介
6)日本救急医学会:『医学用語解説集』.ファウラー体位.
7)日本神経治療学会:『標準的神経治療:不眠・仮眠と概日リズム障害』.2016年
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