【浜田きよ子監修】排泄ケアで患者・利用者の自立を支える!第1回『おむつフィッター研修』とは?

排泄用具の情報館『むつき庵』代表、高齢生活研究所所長、NPO『快適な排尿をめざす全国ネットの会』理事。 看護師・理学療法士、薬剤師、介護福祉士などを対象におむつフィッター研修などの排泄ケアの啓発・教育で活躍。 同志社大学文学部社会学科卒業。2005年に『京都府あけぼの賞』、2007年に日本認知症ケア学会『読売認知症ケア賞・奨励賞』を受賞。 主な著書に、『介護をこえて~高齢者の暮らしを支えるために~』(NHK 出版)、『排泄ケアが暮らしを変える~百人百様の老いを支えて~』(ミネルヴァ書房)、『ヘルパー以前の介護の常識』(講談社)、『高齢者のQOLを高めて介護者の悩みも解決! おむつトラブル110番』(メディカ出版)ほか多数。

母の介護を通じて、排泄ケアの重要性を知る

私が介護について学び始めたきっかけは、母の介護です。
重い糖尿病で入院し、白内障が進行して目が見えにくくなり、トイレに行く途中に転倒するようになった母に対して、看護師さんがおむつの着用を提案されました。

その日を境に母は急速に弱っていき、ベッドから起き上がらなくなり、食事もほとんど食べなくなりました。

おむつと因果関係があったかはともかく、母はそれからひと月後に亡くなりました。69歳でした。

「おむつを使わなければよかった。でもどうすればよかったのか」という思いが私の仕事の原点となり、私はケアに関するさまざまな用具について情報を収集し、選び方や使い方を学んできました。

介護の勉強会や研修に参加するなか、食事・移動・住環境・疾病・衣服・薬・ケアの仕方など、暮らしのすべてにつながる排泄ケアがケアの要となるものと感じるようになり、排泄ケアを学べる場所を作りたいと考えました。

排泄用具類を学ぶことができる『むつき庵』

排泄用具の情報館『むつき庵』がオープンしたのは2003年のことです。

京町屋のような細長い家を借りて、そこを改造したのです。細長い廊下や風呂場、玄関の上がり口などはそのままに、どうすれば暮らしやすくなるかを提案したいと思ったことと、介護ベッドなどを置くにしても、その大きさのイメージが把握しやすいほうが良いと思ったからです。

ここではおむつ類が400点余り、ポータブルトレイや導尿の用具、柔らかな便座、排泄しやすい衣服など、計800点程度のモノを展示して、排泄の相談を受けています。

数えきれないほどの相談を受けながら感じたことは、心地よい排泄を行うには、単に排泄に関する知識や技術だけでは上手くいかないということでした。
食事、運動、眠りなど、全てのことが排泄につながっているからです。

例えば「軟便がおむつから漏れて困っている」という相談もよくあるのですが、この場合、「こんなふうにすればおむつは外れません」というのが解決にならないのは言うまでもないことです。「なぜ軟便が漏れるのか」をまずは探る必要があります。

下剤が合っていない、食事内容の問題、夜間、頻繁に目が覚めておむつを触っているうちに空間ができて漏れた・・・。まだまだいろいろ考えられます。何よりこの質問のゴールは“おむつ以外の排泄方法を探る”ということかもしれません。

目先の問題解決だけでなく、その人の暮らしの状態など、丁寧なアセスメントのうえで排泄ケアを考えられる人、そんな排泄ケアのスペシャリストを養成したいと、むつき庵を開設した後に考えるようになりました。

排泄ケアのスペシャリストを育てる『おむつフィッター研修』

初めておむつフィッター研修を行ったのは2004年、むつき庵の2階でした。幸い翌年からこの研修の申込者が増えて、近くの会場を借りて行うようになりました。

2018年12月現在、3級修了生は7264人、2級は1362人、1級は466人となり、北は北海道稚内から南は沖縄西表島まで、全国各地から受講してくださっています。
職種も介護福祉士、看護師、医師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、福祉用具プランナー、メーカーの方・・・そして一般の方もおられます。様々な職種の方との出会い、このことが大変重要なことだと感じています。

というのも、先に述べたように排泄は広い視点が大切であり、様々な専門性を持った方々とともに考えあうことが重要だからです。

内容は排泄ケアの総論から始まり、排泄のメカニズム、おむつやさまざまな福祉用具について、おむつの当て方などの実技、多職種で事例に取り組むこと、人の身体に触れるための基本など多岐にわたります。

排泄トラブルを抱えた方を取り巻く環境を丁寧に把握してそこから課題や問題点を見出すこと、それを実行する力、つまり技術や方法を覚える以上に、考える力をつけたうえで実践できる人、『おむつフィッター研修』はそんな方々を養成したいのです。

この研修では2級、1級の方々に論文を書いていただき、その提出後にそれぞれの級が修了となります。

本連載では、日々のケアに役立つよう、その方々の実践論文をご紹介していきます。

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