地域で栄養・口から食べるを支援!多職種連携・チームビルディングのコツとは?『未来をつくるkaigoカフェ』レポート~新食研編part2~

『kaigoカフェ』×『新食研』で見えた地域の医療・介護連携

2018年7月25日にLIFULL社にて開催された『未来をつくるkaigoカフェ』では、新宿区で食支援を行っている新宿食支援研究会(新食研)の代表である五島朋幸先生をプレゼンターに迎え、『食べること 生きること~食べられるまちづくりとは~』をテーマに、訪問歯科から始まった地域での食支援について発表されました。

前回の記事はその講演内容の前編として、訪問歯科のはじまりについてまとめましたが、本記事は、その講演内容の後編として、多職種連携の必要性からどのように組織作りを行ったか、また、地域で食支援を行うためには何が必要かについてまとめました。

ふれあい歯科の五島です。地域での多職種連携には戦略が必要です。

五島朋幸先生

『新食研』誕生!地域において独りではなくチームで医療・介護をするためには

五島:歯科だけで栄養管理・口腔ケアをすることに限界を感じ、いろいろ考えるようになりました。

病院などでは栄養管理や口腔ケアなどを病院で完結して行うことができますが、食べることを地域で支えるためには、他の施設にいる医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、ケアマネ、ヘルパー、福祉用具専門相談員などと連携する必要があります。

また、それぞれが持っている職種の専門性によって、できることとできないことが明確にあり、全部ができる職種というものはありません

ということは、誰かと誰かがコラボをする必要があり、“多職種で食べることを支える”ことが地域での食支援だと考えました。
そのためには地域でのチームが必要で、新食研を立ち上げたのです。

新食研は現在150名在籍していて、医師、歯科医、看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、福祉用具専門相談員、ソーシャルワーカー、弁護など、様々な職種の方々参加して貰っています。

ワーキンググループも20以上あり、 デイサービスのチームや介護の研究チーム、 薬局薬剤師のチーム、薬局栄養士のチームなど、それぞれの職種がそれぞれの立場で地域の食支援についての活動をしています。

いきなりこのような組織になった訳ではありません。

地域における多職種の組織作りには、きちんとした戦略をもって進めていました

地域を変えるには介護職から!

新宿は8つも基幹病院があるためか、胃ろうの患者さんがとても多いエリアとなっています。
もちろん、胃ろうそれ自体が悪いという訳ではありません

ですが、患者さんや利用者さん本人が少しでも口から食べたいと思い、その機能が少しでも残っているのならば、それを支援することが僕らの活動だと考えました。

当初の活動目標に、“介護職の意識を変える”というものを考えていました。

なぜ、最初に介護職の方の意識を変えることを考えたかというと、介護職はすでに訪問という形で利用者さんの家に入っているからです。

在宅医療・介護において、患者さん・利用者さんの変化にすぐ気づくことができるのは、ヘルパーの方だったり、デイサービスの方だと思うのです。

ですから、患者さん・利用者さんとの接触が多い介護職の方から、食支援について意識を持って貰おうと考えました。

そのためには、みんなで学んで仲間を作っていく必要があり、勉強会を企画するようになりました。

勉強会には仕掛けが必要!ごとう流チームビルディング術

新食研では月に1回勉強会を行っていまして、2018年7月現在で83回目を迎えました。
これだけの回数の勉強会を実現できたのには、きちんとした“仕掛け”があります

例えば、いきなり「さぁ『新食研』ができました!みんなで勉強会をしましょう!みなさん来て下さい!」と言っても人は集まりません。
そもそも、「“食支援”って何ですか?」っていうぐらいが関の山です。

なので、最初は、“来る人はオープンにして、招いて話して貰う人は有名な人”という形で始めました。
そこで、勉強会を3回、4回とやっていく中で目的としていた“新宿エリアにいる常連さん”が出てくるんですね。

そうなると、“新宿エリアの参加者”という枠を作ることができ、 そのような枠は勉強会に優先的に参加できるというようにすることで、新宿の人の参加がますます増え、また、その新宿エリア枠の中から、勉強会で登壇して貰う人を出すというような仕掛け作りをしていきました。

これによって、新宿の人による新宿の講義を新宿でできるようになるじゃないですか。

そこに集まってきたのが、超優秀な理学療法士や日本一の福祉用具専門相談員の方です。

福祉用具専門相談員のすごさ

僕ら医療の人間、歯科医もそうなんですけども、患者さんの“機能をみる“職種なんですね。
“機能をみる”職種にとって、今日やって今日結果出るということは、まず、ありえないのです。

しかし、福祉用具専門相談員のような職種は、“環境をみて”福祉用具を調整することで、その場ですぐ環境を変えられる力があります

一発で局面を打開できることから、彼らを『ファンタジスタ』と呼んでいます。

栄養士がますます活躍できるためのアプリ開発

訪問栄養士の方々というはまだ少ないですよね。
なぜ、訪問栄養士が少ないかというと、他の職種からすれば何が結果なのかよくわからないというところがあります。

栄養士は、出す結果をしっかり出しましょうよということを掲げて、栄養について指示を出したケアマネや医師に結果を渡しましょう。

そうすると栄養士の仕事をアピールできますし、在宅における栄養指導っていうのはもっと使って貰えると思うんです。

そこで、新食研では栄養入力アプリ『食べるデイ』(webアプリ)を作りました。

新宿区には90事業所くらいのデイサービスがあるんですけども、そのうち10 事業所が参加してくれています。

その事業所が参加しているワーキンググループ『食べる☆デイ』では、3ヶ月に1回、デイサービスで食機能(咀嚼機能・摂食・嚥下状態)、栄養状態、体力をデイサービスの職員の方がチェックする『食べる☆デイテスト』というのをやっています。

これまではデイサービスでの記録では、不定期に体重などを記録していたので、変化がわからないという課題がありました。

そこで食べるデイテストでは、これらの機能を数値で入力するとともに、A~Dの4段階で継続的に評価しています。

これにより、その患者さん・利用者さんの具体的な変化が理解・共有されるのです。

地域における食支援のプロフェッショナルの仕事とは?

さて、ちょっとここからはプロフェッショナルの仕事というのを見てもらいましょう。

この利用者さんは、何を食べているのか、飲んでいるのかよくわからないとご本人も言っていました。そのような状況で退院をしました。
在宅支援として、訪問看護師、訪問歯科衛生士、訪問栄養士、ケアマネジャー、ヘルパー、福祉用具専門相談員、理学療法士などが介入して、3ヶ月がどうなったか。

このように食べられるようになりました。
これが食べるということです。これを支援していくということが我々のプロフェッショナルなんです。

次は、手術により嚥下障害が出てしまい、入院中の嚥下管理をしても効果がでなくて、そのまま嚥下管理が打ちきりとなり、胃ろうを入れて退院し、在宅医療へ移行となった事例です。

ご本人としては口から食べたいとおっしゃっていたのですが、初めは嚥下しやすいゼリーを飲み込むにも一苦労という状況でした。

その2ヶ月後、かなり口から食べられるようになりました。

この時、朝は胃ろう、お昼は経口、夜はまた胃ろうだったんですね。
次の日も朝は胃ろうお昼と夜は口から食べるという感じで で3日目は朝も昼も夜も口から食べました。

MEMO
胃ろう患者へ経口栄養を選択する場合の考え方
胃ろうは1回400kcalなので、400kcalが40分で摂取できるのであれば、胃ろうではなく経口摂取するようにしています。

例えば、35分で200kcalをとって、残り5分で栄養ドリンクで、もう200kcalを摂取してちょうど400kcalになった!でもいいと思います。

次は、喘息で入院した80歳代の患者さんです。
入院中に肺炎となった。しかも入院前は要支援だったのが、入院後に要介護になって帰ってきました。

病院では「口から食べてはいけません。一粒の米でも食べたら死にます!」みたいに言われ、家族は「患者さんのために鬼になって下さい」と言われて。

しかし、1か月後、適切な介入により食べられるようになったのです。

医療・介護のプロが地域で食支援を実現するために、一般の人とのコラボが必要!

新食研は150人の仲間がいて、人数の多い団体と言われます。
しかし、職能団体として「みんなでやろうぜ!」「困った人がいたら助けます!」ということだけでは、活躍としてはあまりに稚拙です。

その活動には、誰のために何をやるのかをしっかり作らないと良いチームにはなりません。

対象者は新宿区の人口は、2018年8月1日現在で34万6千人です。
高齢化率はそれほど高くありませんが、老年人口は約6万7500人だそうです。

ではこの中で、食支援が必要な人はどれくらいか。
摂食・嚥下障害を持った高齢者は16%といわれます。

ということは、現在、新宿区で食支援を必要としている高齢者は、なんと1万人以上いることになります。

これは僕ら医療・介護のプロが250人、500人いたって到底カバーできない人数です。

つまり、プロだけでは地域の食支援をフォローできないということです。

ですから、いかに一般の方にも食支援の活動を知ってもらい、関わって貰うかが重要です。

隣のおばちゃんでもいい。
適切な人につなぐことが大切です。

見つける・つなぐ・結果を出す。
そして広める。
プロだけではどうにもなりません

食支援とは街づくりなのです。

新宿区で胃ろうになった人を助けるとなると50人くらいかもしれません。
しかし、新宿区にいる1万人の高齢者の食支援を行うとなると、それには戦略が必要となります。

その戦略の一つが、助けてくれるプロがいるということを一般の人に知ってもらうことなのです。

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