それ自宅でもできますか?高齢者の退院支援や在宅医療で活躍する『福祉用具専門相談員』とは

執筆者
山上 智史
山上 智史
株式会社K-WORKER(福祉用具貸与事業所) 福祉用具部部長/福祉用具専門相談員・福祉住環境コーディネーター2級・介護福祉士・ホームヘルパー2級)

過去にホームセンターにて日用品・介護用品の売り場などを担当。その後現在のK-WORKERにて介護福祉士として介護現場を経験。現在では福祉用具貸与事業所と便利屋事業(住まいるサポート)の管理者を務め福祉用具専門相談員として現場経験を活かした「高齢者在宅の自立支援・介助者負担の軽減を目的とした環境づくり」を実践しているスペシャリスト。

高齢者の日常生活を一気に改善するためには?

高齢者や障害をもつ方は、起立や歩行が困難になったり、入浴・食事・排泄などが一人でうまくできなくなったりと、生活上の課題を多く抱えることも多いと思います。

薬物治療やリハビリなどで利用者の身体的機能や生活機能は徐々に改善していきますが、今日明日でいきなり状態が改善することを望むことはまだまだ難しいところです。

利用者が立ったり歩いたりと日常生活を送るために介護者がつきっきりとなることは、利用者自身の自立能力を損ないますし、介護者の負担も高く、現実的ではありません。

そんな時、利用者自身を改善するのではなく、利用者の環境を改善することで劇的に状況を改善できるのが、福祉用具専門相談員です。

『福祉用具専門相談員』ってどんな職種?

『福祉用具専門相談員』とは、介護保険を利用している高齢者や障害を持った方に対し、福祉用具や住宅改修などの選択肢からその方の身体にあった環境づくりのアドバイスをする事務職です。

『福祉用具』とはベッド、車椅子、手すり、歩行器、シャワーチェア、食具、オムツ、靴など様々です。
これらの用具の目的は、利用者の「できる機能を生かす」(自立支援)、「介助者負担の軽減」です。

利用者にあった福祉用具を選定するためには、『利用者の身体機能がどの程度あるか?』と『利用者の住環境はどのようなものか?』という2つを評価し、両者を踏まえて、どのような福祉用具がその利用者に適切かを判断する必要があるため、その専門家である福祉用具専門相談員に協力を依頼することが効果的です。

また、福祉用具は車いすなど高価なものもあるため、利用者が購入すべきか判断に迷う場合もあると思います。
そのような場合、福祉用具を介護保険でレンタルすることができ、利用者の経済的負担を軽減することができます。

このように、身体機能にあわせた福祉用具利用時の制度利用についてもコンサルトできるのが、福祉用具専門相談員の役割です。

福祉用具専門相談員とは、実は介護や医療従事者が訪問するような高齢者の在宅には高い確率で関わっている職種だといえます。

介護保険利用の在宅の高齢者が使う福祉用具のほとんどは福祉用具専門相談員が自立支援、介助負担の軽減などを考慮しながら目的を持ち計画を立て選定した福祉用具ではないかと思います。

しかし、他職種からみた福祉用具専門相談員のイメージは“必要な福祉用具を持ってきてくれるだけの道具屋さん”という印象の印象を持っている方も多いようです。

では実際、福祉用具専門相談員は、在宅では実際にどのような役割を担っているのかを簡単に一部をご紹介します。

福祉用具専門相談員の役割

身体の残存機能を把握しての自立のための道具や環境改善の提案

福祉用具は体が不自由になった方の生活を補うのには大変有効です。
例えば、歩行が不安定になり外出に自信がなくなったという利用者にもその方の能力に合わせた『歩行器』を選定することで、歩行だけでなく精神的にも安定し積極的な生活が維持できるようになります。

しかし、福祉用具は安易に過剰に導入してしまうと自立を阻害してしまうこともあります。

そのため、利用者本人の身体機能を把握したうえで用具を選定し、利用者が自立しやすいように提案をしています。

福祉用具の選定をきっかけとした他職種との利用者の情報共有

福祉用具は自立のための道具ですから様々なことを把握した上で提案をします。
例えば身体のことは理学療法士、日常の生活のことはヘルパー、疾患のことは看護師などから情報を取り入れ、今の身体に適したタイムリーな選定します。

そのため、その利用者に合わせた福祉用具の選定には、『サービス担当者会議』(サ担会)をはじめとした他職種との情報共有は不可欠になり、時には他職種と一緒に訪問時間を合わせて選定する場合もあります。

退院時の病院と在宅との架け橋

福祉用具専門相談員は、病院の環境と自宅の環境のギャップをうめるため、利用者の住環境を把握したうえで福祉用具を選定します。

福祉用具専門相談員への依頼の多くはケアマネジャーから入ります。
もし他職種や利用者から直接連絡が来てもケアマネジャーに報告してから在宅に訪問することが多いです。

そしてケアマネジャーから依頼があると、まず実際に在宅に伺い、利用者ご本人の動線の段差・幅・家具の位置・取っ手等の形状・床等の素材などの確認を行い、それらの情報を基に福祉用具を選定します。

また、当然ながら、在宅と病院の環境は同じではないため、特に病院から在宅へ戻る方の場合、その在宅の住環境の情報を病院側に伝え、機能訓練に生かしてもらうなど、病院側へ利用者の情報をフィードバックすることもあります。

利用者は自宅でも本当にトイレができますか?

例えば、病院ではトイレからの立ち座りが「できる」という評価をされた利用者に対し、 在宅のトイレの高さを報告したところ、在宅のトイレは病院の高さより4センチ低いことがわかり、再度リハビリ評価をしてもらいました。

結果的には現状では在宅のトイレの高さでは立ち座りができないことがわかり、退院までにリハビリを在宅のトイレの高さに合わせて行ってもらうことになりました。

他にも看護師から、その患者・利用者が病院で上手くいっていることを確認します。

例えば、「ベッドの背上げが何センチにしたら飲み込みが安全か?」「食具はどんなものを利用しているのか? 」どんなマットレスは利用しているか?」「移乗方法は?」…など確認し、上手くいっていることは在宅でも同じ環境をつくり、改善する必要がある場合は再選定をして在宅での環境を整えるといった活動をします。

このように、利用者の在宅環境を知る福祉用具専門相談員は、退院時には在宅と病院との架け橋になることが多いのです。

福祉用具専門相談員をもっと活用しよう!

このように福祉用具専門相談員は、“道具を納品し設置するだけの「道具屋」”ではなく、
①利用者の身体機能・住環境に応じた自立を支援する福祉用具の選定
②福祉用具の選定をきっかけとした他職種との利用者の情報共有
③退院時の病院と在宅との架け橋
といったことをする専門職なのです。

例えば、歩行の場合、利用者が今まで手をついていなかった場所で手をついて歩いたり、つまづかなかった場所でつまずいたりしだしたら、環境改善、すなわち福祉用具専門相談員の介入のタイミングと考え、ぜひ福祉用具専門相談員に声をかけてください。

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