新宿・福井・秋田!地域で食べられないを解決する『第2回タベマチフォーラム』リポート

2018年9月2日に東京・高田馬場にある富士大学にて、第2回タベマチフォーラムが開催されました。

タベマチフォーラムは、五島朋幸先生(ふれあい歯科ごとう代表)が主宰する、多職種連携による地域の食支援団体である新宿食支援研究会(新食研)の皆さんが中心に行っているイベントです。

五島朋幸先生

歯科医をはじめ、医師、看護師、栄養士、作業療法士、理学療法士、福祉用具専門相談員、介護福祉士など、多くの専門職の方が、自分たちの地域で実践できる食支援の方法を学び、発表しました。

様々な医療職が参加するイベントは数多くありますが、タベマチフォーラムの特徴は、なんと言っても、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士や栄養士、介護職などが活躍している点です。

また、経口栄養=口から食べることを地域で支えようと、まちづくりを視野に活動している点も大きな特徴です。

そのため、タベマチフォーラムは医療・介護従事者ではない一般の方も参加できる市民講座的な側面があります。

誰もが自分たちの“口から食べる”を考え、工夫し、実践するー。
そんな興奮冷めやらぬ第2回タベマチフォーラムをリポートします。

小山珠美先生による挨拶:切れ目のないケア提供のために患者・家族にできること

来賓の小山珠美先生(NPO法人口から食べる幸せを守る会 理事長)は、自分たちのケア提供の経験のなかから、医療従事者のケア提供が次の機会まで途切れることへの違和感について話されました。

食支援や口腔ケア・リハビリ評価など医療従事者が患者・家族へ行う良い行為が、次回の診察やケアなどの機会まで途切れてしまうことで、患者・家族が困ってしまうことについて、医療従事者はもっと考える必要があります。

自分たちが人生の最期まで食べていくためには、患者本人や家族の当事者意識が大切ですが、彼らが当事者意識を形にしていくためには、医療者が患者本人や家族に対して、具体的に何をどのようにすべきかを教えて、ケアをつないでいくことが大切だと述べられました。

また、自身が代表をつとめる『口から食べる幸せを守る会』では、そのような患者・家族を支援するために家族会も立ち上げられましたそうです。

挨拶の結語として、養老孟司氏の話を引き合いに出し、医療従事者が知識・感覚・経験の中でも知識偏重になりがちであることに警鐘を鳴らし、一人の人間がどんな思いで生きているか、この人の気持ちに寄り添いながら、相手の立場になって考える感覚が重要であると述べられました。

井階友貴先生による基調講演:健康のまちづくりのための3つの視点 “食べること”をまちづくりから考える

午前中のセッションを担当されたのは、福井県高浜町でプライマリケア医として活躍され、また、まちおこしの活動も行っている井階友貴先生(福井大学医学部地域プライマリケア講座教授/高浜町和田診療所所長/高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー)です。

井階友貴先生

井階先生は、高浜町のゆるキャラ『赤ふん坊や』と一緒に(一体化して?)、“健康のまちづくり”を広めるという異色な活動を行っています。

そんな井階先生からは、理想的な食支援について、医師と行政の立場とともに社会医学や予防医学の観点から発表されました。

井階先生は、人が健康であることは、経済的・社会的な状況=社会的決定要因に影響されるため、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)=人との絆、社会に出て交流することが健康に良い影響を与えることと述べました。

その一例として、高齢者が行う低強度の運動と組織参加について、『①スポーツ組織に参加して運動』、『②スポーツ組織に参加しない、運動しない』『③スポーツ組織に参加せずに一人で運動』『④スポーツ組織に参加するが、運動しない』の4群を比較して要介護になるリスクを調べた研究をあげました。

研究結果では、多くの方が予想するように『①スポーツ組織に参加して運動』がもっとも要介護リスクが低く、運動の効果が見られたのですが、実はこの結果と『④スポーツ組織に参加するが、運動しない』群の結果は有意差がなく、ほとんど同じように要介護リスクが低いと紹介されました。

自由で対等な地域のつながりで各個人と地域を健康にしよう

地域に課題がある場合、専門職は地域においてアドバイザーのような立場で招かれることが多いですが、医療だけが良くなってもバランスを欠き良くないので、地域の中に入って住民と関係性を築き、そもそも地域問題の何が問題なのかを見極めていくことが大切と述べました。

また、まちづくりの視点では、公民館を活用したり、住民主体の参加イベントを定期的に行うなどの取り組みを紹介されました。

町内の医療機関・介護施設での従事者は、『暮らしの保健室』のようなコミュニティーケアセンターで週1日は自由に活動してよい勤務形態を保障しているそうです。

健康まちづくりでは、住民主体で自主的につながっていくことを専門職が支援していくことの重要性を述べられました。

基調講演2:あの秋田県でやっている「口から食べる」を支える生き残り大作戦

午後のセッションを担当されたのは、歯科医師である小菅一弘先生(秋田食介護研究会代表)です。

小菅一弘先生

平成29年に人口100万人をきり、高齢化率35.5%と日本一となった秋田県。

とりわけ小菅先生が地域歯科医療をされている東成瀬村では、平均年収が208万円ほどと全国1741自治体中1736番目と経済的に厳しい地域で、高齢者が歯科治療にかけられる予算がなく、残された歯も少ない状況です。

お金がない地域においては、健康教育が重要であると考えた小菅先生はある雑誌と出会い、訪問歯科、在宅歯科医療に取り組みはじめたそうです。

小菅先生によれば、当初、在宅歯科医療は義歯の問題ばかりで、医療者側の都合のよいものを食べさせて大満足し、食べられる人ばかり相手をしていて、うまく食べられない人は当時は諦めていたそうです。

そんな時に小菅先生が出会ったのが、摂食・嚥下障害という概念です。

福島県いわき市の市川文裕先生が『いわき食介護研究会』を立ち上げられ、“食介護”を提唱されました(同時期に手島登志子氏も「食介護論」を提唱されています)。

食介護とは、食材の見直しから摂食・嚥下までの一連の食動作を医学的見地から支援し、食文化・食習慣なども含めた要介護者の食環境を包括的に理解・把握し、一生口からおいしく食べるための介護のこと
市川文裕 先生(いわき食介護研究会)

いわき食介護研究会に触発された小菅先生は、福島県の市川歯科医院を訪問して様々な指導を受け、2007年9月に秋田食介護研究会を立ち上げられました。

しかし、現実は甘くはなく、過疎地には多職種などはいないため、少ない職種で他の職種の領域もカバーしなくてはいけないTrans-Disciplinaryチームで医療を行う必要があったそうです。

そして、病院から指導された禁飲食、禁離床という現状に対し、地域での摂食・嚥下チームでの介入を取り組まれました。

現在はKTバランスチャートを使って摂食・嚥下能力を評価して介入し、半年で誤嚥性肺炎を食べて治すなどの成果を紹介されました。

また、小菅先生は患者が低栄養やフレイル、誤嚥性肺炎などの状態になる前に、正しい口腔ケアを行ったり、オーラルフレイルを予防できていればと考え、地域の核となる人材育成に取り組んでいます。

人材育成のために、言語聴覚士や薬剤師、訪問美容師などの職種が片麻痺を体験することで機能的口腔ケアを学ぶセミナーなどを開催しています。

そして、秋田食介護研究会では、地域の点と点を結んで面とし、食べられなくなる前に口腔ケアや摂食嚥下の知識を広め、、誤嚥性肺炎にさせない活動を展開していくと結びました。

トークセッションとパネルディスカッションなど

基調講演のほか、五島先生・井階先生・小菅先生によるトークセッションや、大井裕子先生(聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科)と下平貴子さんによるパネルディスカッションでは、食支援やまちづくりについて経験に基づく様々な意見が出されました。

また、会場では作業療法士が中心となり、口の機能を高めるための新感覚スポーツ『くちビルディング』として、舌の技巧性を競う「黒ひげペロリ」や、口輪筋と呼吸筋が勝負を分ける「ふーふーどきどきレース」などが行われました。

そのほか、タベマチフォーラムでは、食べる力をどう維持・回復していくかのサービスなども紹介され、一般の方にとっても大いに役立つ内容でした。

第3回となる次回のタベマチフォーラムは、2019年9月開催予定だそうです。

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