【第30回(2018年)介護福祉士国家試験過去問解答・解説】問題53

30-053 疾病のために食事制限がある利用者の食生活に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 人工透析をしている利用者には,生野菜を勧める。
2 高血圧の利用者には, 1日の塩分摂取量を10g以下にする。
3 骨粗鬆症(osteoporosis)の利用者には,豆類を勧める。
4 糖尿病(diabetes mellitus)の利用者には,朝食に1日のエネルギー量の半分を配分する。
5 肝疾患(liver disease)の利用者には,低カロリー,低たんぱくの食事を勧める。

正解:3

【解説】
1=×:人工透析とは、腎臓の機能が低下して、血液中の老廃物をろ過できなくなった場合の末期に、人工的に血液をろ過・浄化する方法です。

腎機能が低下する原因として、過剰なタンパク質摂取があります。タンパク質の代謝産物は『尿毒症』の原因物質として蓄積するため、腎臓の糸球体でタンパク質をろ過しますが、高タンパク質はろ過により腎臓に負担をかけてしまい、ろ過装置である糸球体とその糸球体からつながる尿細管とでなる『ネフロン』を減少させて、より腎臓の負担を高めてしまいます。
そのため、腎機能が低下している人、とりわけ透析の利用者においては、タンパク質をはじめ、様々な食事の制限があります1)

腎機能が低下すると、タンパク質だけでなく、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの電解質もろ過できなくなります。
生野菜にはカリウムが多く含まれますが、カリウムが過剰となると、四肢のしびれや吐き気を生じる『高カリウム血症』となります。カリウムなどの電解質は神経や筋肉への興奮伝導にも関与しており2)、心臓に影響を及ぼすため、高カリウム血症は不整脈の原因にもなります3)

それゆえ、カリウムを多く含む生野菜の摂取は透析の利用者に勧めることは不適切ですので、この選択肢は誤りです。

なお、慢性透析患者(血液透析)におけるカリウム摂取量は2,000mg/日以下が推奨されています4)

2=×:血液中の塩分の量が増えると、体は血液の濃度を一定に保とうと血液量が増加し、その結果として血管にかかる圧力が増加します。これが高血圧であり、塩分摂取量と血圧は正の相関関係(比例関係)があります5)

日本高血圧学会の提言では、高血圧において食塩摂取は1日6g未満が推奨されている6)ため、この選択肢は誤りです。

3=○:『骨粗鬆症(こつそしょうしょう)』とは、骨の密度が低下して、骨折しやすくなる疾患です。WHO(世界保健機構)では、“骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患”と定義されています。

骨粗鬆症の予防として、骨の材料となるカルシウムの摂取があげられますが、カルシウムの摂取だけが重要なのではありません

腸管がカルシウムを吸収する働きに影響を与えるビタミンDや、骨の材料特性に影響を与えるビタミンKが不足することにより、骨の脆弱性が高まります。また、骨形成にはタンパク質も影響をあたえているため、骨粗鬆症においては、ビタミンDとビタミンK、タンパク質の摂取も重要です。

大豆はカルシウムやタンパク質が豊富であり、骨粗鬆症の人に推奨できる7)ため、この選択肢は正しいです。

4=×:糖尿病での食事のとり方は、朝・昼・夜と規則正しく食べ、間食を控えることや、腹八分目としてゆっくりよくかんで食べることが推奨されています8)

本選択肢のように、1回に1日摂取エネルギーの半分以上をとってしまうと、急激な血糖上昇を招き、糖尿病を悪化させるおそれがあるため、この選択肢は誤りです。

5=×:肝臓は糖・タンパク質・脂肪を体内で使える形に変えて貯蔵し、必要に応じてエネルギーのもととして供給する、代謝機能を持つ臓器です。また、アルコール・薬・老廃物などの毒物を解毒する機能や、脂肪の消化吸収を助ける胆汁を生成・分泌する機能もあります。
これらの機能が低下する肝疾患の患者では、低タンパク・低カロリー=低栄養状態となりがちであり、栄養療法が必要となります9)。

肝疾患が進行した肝硬変では、代謝異常によってタンパク質が失われ、またタンパク質合成そのものの低下もあるため、タンパク質摂取が必要となりますが、高タンパクは肝臓の負担を高めるため、必ずしも高タンパクが望ましいとは限らず、その人の標準体重などから算出して摂取するのが適切10)です。

また、ASPEN(米国静脈経腸栄養学会)やESPEN(ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会)などのガイドラインでは、肝硬変患者への長期低タンパク食は窒素平衡を負に傾け、タンパク質の分解を促進することで、長期的にはマイナスに働く可能性が指摘されており、また、低タンパク食はサルコペニア(筋肉量の減少による身体機能低下)のおそれがあるため、実施しないことが推奨されている9)ため、この選択肢は誤りです。

参考文献
1)日本腎臓学会:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』.CQ 2 CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?,2018年
2)厚生労働省:『日本人の食事摂取基準(2015 年版)総論』.ミネラル(多量ミネラル),2015年
3)日本腎臓学会:『CKD診療ガイド2012』.生活指導・食事指導:成人,2012年
4)日本腎臓学会:『慢性透析患者の食事療法基準』.透析会誌 2014; 47(5): 287-291
5)日本高血圧学会:『高血圧治療ガイドライン2014』.
6)日本高血圧学会:『高血圧の予防のためにも食塩制限を』.2016年6月
7)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会:『骨粗鬆症の治療と予防ガイドライン2015年
8)日本糖尿病対策推進会議:『糖尿病治療のエッセンス
9)日本消化器病学会:『肝硬変診療ガイドライン2015(改訂2版)
10)日本肝臓学会:『患者さんと家族のための肝硬変ガイドブック

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