『医療的ケア児』-介護職員のよる喀痰吸引など、法律・社会インフラ整備が必要な存在

医療的ケア児とは、その名のとおり、医療的ケアを必要とする子どものことです。

新生児医療が発達し、NICU(新生児集中治療室)に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な障害児のこと1)

医療的ケア児は全国に約1.8万人いると推計されています2)

医療的ケア児にも幅があり、自分で歩いたり生活ができる子どももいれば、重度の知的障害と四肢不自由をあわせ持つ重症心身障害児(重心児)まで様々です。

本人の不自由さもさることながら、医療的ケア児を取り巻く状況が整備されておらず、医療的ケア児の介護者の負担の高さが問題となっています。

障害が軽度のものであれば保育園や幼稚園でもお預かりが可能ですが、医療的ケア児となると、お預かりは難しいのが現状です。なぜなら医療的ケアに対応できるスタッフ(主に看護師)が充分に配置できず、安全性を確保できないからです3)

また、介護・看護者の「1日の平均睡眠時間」について、医療依存度が高い子どもを持つ家庭では、約9割が6時間未満、かつ睡眠が断続的であるという報告4)がなされています。

医療的ケアとは?なぜ必要なの?

それではそもそも、“医療的ケア”とは何をいうのでしょうか。
医療的ケアとは、看護師や家族などが日常的に行っている経管栄養注入や痰の吸引など医療的な生活援助行為をいいます。
具体的には主に「喀痰吸引」「経管栄養」「気管切開部の衛生管理」などをさします。

医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医師法第17条)を『医行為』といい、医師または歯科医師が自ら行わなければならない行為を『絶対的医行為』、医師の指示のもとに行われる行為を『相対的医行為』といいます。

医療的ケアは相対的医行為に該当し、医行為となるため、医師ではない者が行うことは本来ならば違法行為となりますが、例えば、栄養摂取や呼吸など医師がいなければ子どもが病院外で暮らすことは不可能となるため、このような、法律より実益が上回り正当化される場合、その違法性が阻却される『実質的違法性阻却論』が適応され、容認されるのが現状です5)

NICUで入院が必要となる子どもは、先天性の疾患を持っていたり、呼吸する力が弱いのです。そこで、酸素療法として人工呼吸器をつけて酸素を送ってあげたり、痰を自分で吐き出す力が弱いために喀痰吸引により痰を吸いだしたり、気管を切開して気道を確保することが必要となります。

医療的ケアは誰が行う?

もともとは医療的ケアに含まれる医行為は医師のみが実施(絶対的医行為)するか、相対的医行為として、医師の指導の下、看護師が行っていました。

しかし、平成23年(2011年)6月介護福祉士及び介護福祉士法が改正され、研修を受けた介護福祉士や介護職員等が一定の条件下で、痰の吸引等の医行為ができるようになりました。

また、平成30年度診療報酬改訂により、訪問看護ステーションが、利用者に対して喀痰吸引等の業務を行う介護職員等と連携した場合を評価する『看護・介護職員連携強化加算 (2,500円)』が新設されました。

加えて、医療的ケアが必要な小児が学校へ通学する際に、訪問看護ステーションから通学する学校に対して、訪問看護についての情報を提供した場合を評価する『 訪問看護情報提供療養費2(1,500円)』も新設されました。

このように、医療的ケア児への対応において、訪問看護師と介護福祉士の果たす役割への期待が高まっています。

参考文献
1)厚生労働省社会・援護局:医療的ケアが必要な障害児への支援の充実に向けて(平成29年10月16日).
2)平成29年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」報告.
3)全国医療的ケア児者支援協議会
4)社会福祉法人むそうほか:世田谷区における医療的ケアを要する障害児・者等に関する実態調査報告会.2015.
5)厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課 福祉人材確保対策室:喀痰吸引等制度論
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