脂質異常症とは?
脂質の取りすぎで動脈を固くしたり、血栓を作る疾患です。
脂質異常症の重要性
脂質異常症は血液を止めるおそれがあり、すぐに命が危険という訳ではないですが、脳梗塞や狭心症など、ゆくゆくは致死的な疾患を引き起こす重大な疾患です。
『平成29(2017)年患者調査の概況』によれば、脂質異常症の推定患者数は220.5万人と非常に多いため、国が医療計画において重点的に対策をとる5疾病に指定されています。
なお、男女別の推定患者数は、男性で約64万人、女性で約157万人と、意外にも女性に多い疾患で、女性は男性の2.4倍の患者数となっています。
脂質異常症の機序
脂質の代謝が異常を起こし、①高LDLコレステロール血症、②高トリグリセリド血症、③低HDLコレステロール血症のいずれかを引き起こします。平たく言えば、LDLコレステロールがHDLコレステロールより優位になって、血液中が脂まみれのままとなることが脂質異常症の病態です。
食事中の脂質は小腸から吸収されて、血液に流れるためリポ蛋白と結合し、低密度で巨大なカイロミクロン(中性脂肪90%)となって血中に分泌され、肝臓へ運ばれます。
肝臓ではコレステロールやカイロミクロンの中性脂肪から、超低密度リポ蛋白(VLDL)が作られて再び血液へ。VLDLは血液に流れながら血管内皮にあるリポ蛋白リパーゼに代謝(中性脂肪が加水分解)されてIDL(中間比重リポ蛋白)となり、IDLは肝性リパーゼにさらに代謝を受けて、LDL(低比重リポ蛋白)に変換されます。LDLの一部は肝臓のLDL受容体から肝臓へ戻り、一部は末梢細胞へと送られます。このように脂質やコレステロールを代謝することで各細胞はエネルギーを得えます。
そして、末梢細胞ではLDLが代謝によりHDLとなり、結合していた中性脂肪が少なくなった分、HDLは末梢細胞での過剰な中性脂肪やコレステロールと結合して、肝臓へ運びます。
しかし、食事で摂取した脂質が多いと、一連の流れにおけるLDLコレステロール>HDLコレステロールとなり、低HDLコレステロール血症によりコレステロールの回収が不足し、高LDLコレステロール血症や高トリグリセリド血症を引き起こします。
また、高血圧などで損傷した血管内膜にLDLコレステロールが侵入して酸化LDLとなり、この有害な酸化LDLを倒すために白血球(単球)が血管内に侵入し、マクロファージに成長して酸化LDLを食べます(貪食)。
マクロファージが大量に酸化LDLコレステロールを食べて死んだ結果、コレステロールの塊=プラークが形成されて血管が固くなるとともに、プラークがどろどろのアテローム(粥状)となり、これが破れて血栓ができます。
この血栓が末梢血管まで到達して血流を塞ぐ栓となり、血液不足(虚血)となります。これが脳で起きれば脳梗塞・一過性脳虚血発作、心臓で起きれば狭心症・心筋梗塞となります。
LDLとはLow Density Lipoprotein、HDLはHigh Density Lipoproteinのことで、どちらもリポ蛋白に関係するコレステロールを示します。densityとは比重のこと。Low Density Lipoproteinは、低比重のリポ蛋白、High Density Lipoproteinは高比重のリポ蛋白ということです。
コレステロールや中性脂肪などの油は、血液という水分に馴染みません(水と油の関係)。そのため、水分(血液)に馴染みやすいリポ蛋白が、コレステロールや中性脂肪の周りを取り囲むことで、脂質が血液に乗ることができます。
脂質異常症の成因
・リスク因子:喫煙、高血圧、糖尿病(耐糖能異常)、低HDLコレステロール血症、早発性冠動脈疾患の家族歴(遺伝)
・その他成因:ライフスタイル(過食・運動不足など)、基礎疾患(甲状腺機能低下症、クッシング病、ネフローゼ症候群など)や薬剤
脂質異常症の病態・症状
特に自覚症状はないことが多いですが、動脈硬化が進むことで、重篤な血管系の疾患を引き起こします。
家族性高コレステロール血症ではアキレス腱肥厚や眼瞼黄腫、高トリグリセリド血症では急性膵炎や脂肪肝がみられる場合があります。
脂質異常症の診断・検査
血液検査で、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドを調べ、基準値にあてはめます。
脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
脂質異常症の治療
《原因をなくす治療》
食事療法
・脂質:飽和脂肪酸(4.5%以上7%未満)やトランス脂肪酸は避け、n-3系不飽和脂肪酸(EPAやDHAなど)の摂取を増やす。
・炭水化物:グリセミックインデックス(GI)の低い食事とし、糖分(ショ糖・ブドウ糖・果糖)の過剰摂取を避ける。
・食物繊維:25g/日
・お酒の制限:エタノール換算で25mL/日以下
・食塩の制限:6g/日未満(健康日本21(第二次)の目標値は8g/日未満)
運動療法
・中高度(3メッツ以上)の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など)を毎日30分以上(少なくとも週3回)行い、座ったままの生活とならないようにする。定期的に体重も測定しBMI25以上では摂取エネルギー<消費エネルギーとなるよう体重減少を図る
《症状を改善する治療》
食事療法
脂質異常症を改善する食事
薬物療法
【高コレステロール血症治療薬】
①HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤):コレステロールを合成するHMG-CoA還元酵素を阻害する。最も強い脂質低下作用をもつ。
②異化排泄薬(プロブコール)
③小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)
④陰イオン交換樹脂(コレスチミド)
⑤脂肪酸放出抑制薬(ニコモールなど)
【高トリグリセリド血症治療薬】
①フィブラート製剤(ベザフィブラートなど):脂肪の酸化にかかわるPPARαを活性化させて、脂肪酸のβ酸化を促し、TGやVLDLの合成を阻害する。
②オメガ3製剤(EPA製剤;オメガ-3脂肪酸エチル)
③ニコチン酸製剤
国試に挑戦
【管理栄養士国家試験問題】
〔17年31回問126〕脂質異常症の栄養管理に関する記述である。正しいのはどれか。1つ選べ。
(1)高カイロミクロン血症では、脂質のエネルギー比率を30%E以上にする。
(2)高LDL-コレステロール血症では、飽和脂肪酸の摂取を控える。
(3)高LDL-コレステロール血症では、食物繊維摂取量を10g/日以下にする。
(4)低HDL-コレステロール血症では、有酸素運動を控える。
(5)高トリグリセリド血症では、水分摂取量を制限する。
動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸は、他の化合物と結合しにくい環状構造のため、体に蓄積される脂肪として使われます。一方、不飽和脂肪酸は他の化合物と結合しやすい開環構造のため、貯蔵に向いていません。
〔18年32回問125〕
高カイロミクロン血症の栄養管理に関する記述である。正しいのはどれか。1つ選べ。
(1)炭水化物の摂取エネルギー比率は、30%E以下とする。
(2)たんぱく質の摂取エネルギー比率は、10%E以下とする。
(3)脂質の摂取エネルギー比率は、15%E以下とする。
(4)n-3系脂肪酸の摂取量は、制限する。
(5)食物繊維の摂取量は、制限する。
カイロミクロンの約90%は中性脂肪(トリグリセリド)です。まずは脂質の摂取を減らしましょう。『日本人の食事摂取基準2020年』によれば、通常の人のエネルギー産生栄養バランスは、たんぱく質14~20%E、脂質20~30%E、炭水化物50~65%Eです。
〔19年33回問126〕
脂質異常症の栄養管理に関する記述である。誤っているのはどれか。1つ選べ。
(1)高カイロミクロン血症では、脂質のエネルギー比率を20~30%Eとする。
(2)高LDL-コレステロール血症では、飽和脂肪酸の摂取を控える。
(3)低HDL-コレステロール血症では、トランス脂肪酸の摂取を控える。
(4)高トリグリセリド血症では、アルコール摂取量を25g/日以下とする。
(5)高トリグリセリド血症では、果糖を含む加工食品の摂取を減らす。
前述の問題と同じで、高カイロミクロン血症は脂質過多により発生しているので、脂質のエネルギー比率を減らしましょう。20~30%Eは普通の人の脂質エネルギー比率です。
〔20年34回問121〕
高LDL-コレステロール血症の栄養管理に関する記述である。最も適当なのはどれか。1つ選べ。
(1)炭水化物の摂取エネルギー比率を40%E未満とする。
(2)飽和脂肪酸の摂取エネルギー比率を10%E以上とする。
(3)トランス脂肪酸の摂取を増やす。
(4)コレステロールの摂取量を200mg/日未満とする。
(5)食物繊維の摂取量を10 g/日以下とする。
『脂質異常症ガイド2018年』で推奨されているコレステロール摂取量は200mg/日未満です。
〔20年34回問122〕
高トリグリセリド血症の栄養管理に関する記述である。最も適当なのはどれか。1つ選べ。
(1)炭水化物の摂取エネルギー比率を70%E以上とする。
(2)果糖を多く含む加工食品の摂取を増やす。
(3)n-3系脂肪酸の摂取を増やす。
(4)アルコールの摂取量を50 g/日以下とする。
(5)高カイロミクロン血症では、脂質の摂取エネルギー比率を20%E以上とする。
脂質異常症では、n-3系不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸;EPAやDHA)の摂取がLDLを抑制しHDLを促進するため、推奨されます。
【薬剤師国家試験問題】
〔19年104回問12〕
末梢組織から肝臓へのコレステロールの輸送を主として担う血漿リポタンパク質はどれか。1つ選べ。
1 キロミクロン
2 超低密度リポタンパク質(VLDL)
3 中間密度リポタンパク質(IDL)
4 低密度リポタンパク質(LDL)
5 高密度リポタンパク質(HDL)
高密度リポタンパク質(HDL)は脂質の回収役です。最もコレステロールとの結合が少ないため、末梢組織で余ったコレステロールやトリグリセリドと結合して、肝臓へ運びます。
〔20年105回問38〕
脂肪組織での TG(トリグリセリド)の分解を阻害して肝臓への遊離脂肪酸の取込みを抑制し、肝臓における VLDL(超低密度リポタンパク質)の産生を低下させるのはどれか。1つ選べ。
1 ニコモール
2 アトルバスタチン
3 コレスチラミン
4 イコサペント酸エチル
5 クロフィブラート
脂肪酸放出抑制薬(ニコモールなど):脂肪組織からの遊離脂肪酸が放出するのを抑制し、肝臓への遊離脂肪酸の供給が減少します。その結果、肝臓での中性脂肪の生成が抑制されます。
出典
1)日本動脈硬化学会『コレステロール摂取に関するQ&A』
2)日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版』