介護が行う高齢者施設での看取りとその課題

執筆者
松木 信治
松木 信治
戸倉デイサービスゆいっこ所長 (介護福祉士)/ ケアカフェながの代表

祖母の在宅介護をきっかけに介護の仕事の大切さを学ぶ。1998年長野医療生活協同組合の老人保健施設ふるさとの開設スタッフとなり施設から通所ケアまで現場経験を重ねる。その後同生協法人の稲里生協クリニック、長野中央介護センターつるがなどの開設と運営に携わり、ケアマネージャー業務も行う。2012年長野県で初のサービス付高齢者向け住宅「つるがの風」の責任者として6年間勤務。2017年より現職。

医療から介護への比重の高まりが生む看取り

地域包括ケアが推進される中で医療機関や介護施設での介護給付の圧縮が進み、地域で介護を担う流れは今後も進んでいくと思います。

また、高齢者やその家族も、本人の意志を尊重する思いから、慣れ親しんだ自宅で最期を迎えたいと望む人も増えて来ています。しかしながら、現在も圧倒的に病院や施設で亡くなる方が多いのも事実です。

高齢者施設での看取りが多くなっていくなか、そこにおける課題とはなんでしょうか?
そして介護の仕事に携わる職員は「看取り」に対して何ができるのでしょうか?

看取りの方針を再確認する

誰にとっても「死を迎える」ことは初めての経験です。

患者・利用者本人や家族は、看取りのあいだに辛い時間を過ごす中で、不安や憤りを感じるかも知れません。

そのような不安や憤りをケアするためにも、もう治らない、治さない治療過程を、患者・利用者本人と家族も含めた関係者がコンセンサス(合意)をもって看取りに向き合っているかを確認する必要があります。

看取りの時期においては、患者・利用者本人の普段の様子を伝え、より本心に寄り添って代弁できるのは、日常的に身近に接して家族や本人の素直な気持ちを聞く機会が多い介護スタッフであることがあります。

そのために看取りの場面においては、繊細に体調や気持ちの変化に気を配りながら介護をする必要があるでしょう。
介護は終末期に寄り添うことのできるチームの一員として、生活の中での支援的な役割を持つことが必要です。

介護は終末期のテーマに寄り添うことのできるチームの担い手として、生活の中での支援的な役割を持つことが必要です。

看取りにおける介護のポイント1
◎介護の職員は「看取り」に関わるチームの担い手であることを再確認し、本人や家族の意志を代弁するとともに毎日の微細な変化に気づくこと

看取りの生活支援とは何か

人の生死を扱うため、「看取り」というケアにおいては直接医療に関わる医師や看護師などの医療的意見が優先されがちです。

しかしながら、どんなに進んだ医療であっても、命のさだめを塗り替えることはできません。

そして、死に向かう過程で毎瞬毎瞬をいかに充たされて過ごせるかという場面において、生きていること=「生」を活かすこと、すなわち「生活」こそが最も重要な人生のテーマとなるかもしれません。

朝起きて、目の前に映る風景。
肌に触るリネンや衣服の肌触り、部屋の匂い、食事の楽しみ、窓から差し込む日の光、家族や友人、そしてスタッフと交わす言葉の数々。

介護施設において、利用者・患者が受けるケアの中心は介護であり、患者・利用者へ向けての声掛けには専門的な配慮が必要です。

気持ちや言葉を受け流す技術

例えば、痛みや苦しみをかかえる患者・利用者にとって、何気ない態度や挨拶でも不快に感じることがあるかもしれません。

声のトーンや接遇に気をつけることはもちろんですが、看取りの場面でのコミュニケーションにおいては、ときに「受け流し」も必要です。

相手の思いを全力で受け止めるより、やりどころのない気持ちや言葉を「一度受け止めて」「どこかへ流していく」技術

「毎日辛くてやりきれないよ」と患者・利用者から訴えがあったら「そうですよね、辛いですよね」と一度受け止め、「どこかさすりましょうか」など、その気持ちの矛先を少しだけずらし、消えることのない痛みを和らげる受け答え方もあるでしょう。

ケアに関わる環境を高める技術

オムツ類などが直接肌に触れる場合、その素材や当て方にはもっと細かく体格や肌質に合わせることができるはずです。

また排泄介助をする場合、匂いが気になることもあります。
本人が気がつかないタイミングで消臭スプレーを使うなど、消臭と相手の自尊心の両方に配慮する心構えも大事です。

以前一緒に働いていた施設職員は排泄介助をした後、洗面台で手を洗うついでに施設の庭で摘んできたミントの葉をベッドサイドに活けてから業務を終えて行きました。

身体ケアのなかに相手への思いやりや心遣いがさりげなく備わることこそ、介護にとっての生活ケア技術であると言えます。

最後の瞬間までの毎日のなにげないやりとりも、その人にとっての掛け替えのない「命の時間」なのです。

看取りにおける介護のポイント2
◎生活支援の技術力を高め、よりきめ細かい声掛けや身体介助で介護の専門性を深める

患者・利用者の急変時における役割分担と連携

施設での看取りを経験した介護の経験からよく聞かれるのは、「利用者さんの容体がいつ急変するかわからず、それでいて何もしてあげられることがなくいつも不安だった」というものです。

看取りをするうえで大切なのは役割分担です。

介護現場ではどんな変化や事象に気を配るべきか、そしてどういうときに看護師や医師を呼ぶべきか、あらかじめチーム内で統一しておくことが必要です。

しかしながら、介護スタッフによる安易な医療判断は危険です。

特に看取りの過程においては、患者・利用者本人のレベル低下をゆっくり見守るという難しい支援プロセスが含まれます。何が急激な状態変化に気づくためには、普段の日常ケアの際の状態観察がしっかりとできていることが必要です。

その上で、急変を見極める。
いつもより呼吸が浅い、顔色が不良、声かけに反応が薄くぼんやりしている、四肢冷感が急に進んだなどの異変に気が付いたら、迷わず医療スタッフと連携をとるべきでしょう。

介護施設での看取りにおける介護の役割とは、医療的判断ができるチームスタッフに「なるべく早く的確にパスを渡すこと」が大切であると考えます。

そして医療との連携で的確のパスを渡すということは、治療のためでなく、患者・利用者本人と家族の大切な別れの時間をどのように作り出すかということに繋がります。この点にこそ、介護が看取りの連携で重要な役割を担う意味があるのです。

特に特別養護老人ホームなどでは夜間に看護師がいない場合が多く、介護だけで夜勤などをしている場合もあります。適切な連携のためには介護ケアと看護ケアの役割を明確にして、必要なときにどこに連絡をするべきか連携手順を整備しマニュアル化します。

また食事や排泄介助など患者・利用者本人と接する時間は圧倒的に介護の方が多いため、いざという場面に遭遇する可能性が高いです。そのため、介護スタッフが統一された対応手順をもとに日々のケアにあたる必要があります。

特に高齢者住宅や住宅型有料老人ホームなどでは施設内に医療スタッフが常駐しておらず、外部サービスとして訪問看護や訪問診療を利用している場合もあります。

こうした場合には、ケアマネージャーと相談のうえ、必要時の訪問を想定して緊急時加算などをあらかじめつけて介護保険対応も明確にしておくとよいでしょう。

看取りにおける介護のポイント3
◎施設での看取りをチームとして支える場合、現場での介護の動きをしっかりと位置づけ、医師・看護師の緊急対応手順を明確にすることが大切

必然的に訪れる「死」という瞬間

人は必ず死を迎えます。
ある意味「死」とは誰もが経験する共通のテーマです。

その意味では、看取りとは医療、看護、介護といった専門領域単独ではとらえきれない全体的な事象です。

「看取り」というと高度な専門的ケアが求められると思われるかも知れません。
もちろん、身体的な痛みや苦しみを伴うことも多いため、辛い痛みを軽減する疼痛ケアや医療的処置は必要です。

しかし、薬の処方や技術的な処置だけでは心の不安は取りのぞけません

穏やかな死に寄り添い、思いを共有する心構えが必要です。
介護は医師や看護師や多くの専門職と同様に、いのちの最期を見つめる仕事に関わる深い理解が必要です。

そして死と向き合うための「精神的ケア」については、長い時間利用者や家族と接していたであろう介護こそが身につけるべき技術です。

看取りにおける介護のポイント4
◎介護に携わる職員は、死と向き合うための「精神的ケア」について熟知し経験を深める

施設での看取りの課題〜介護の役割とは

最近、長年介護に携わってきた高齢者住宅の入居者様が亡くなられました。

ご本人の意思で延命治療は行わないということで選んだ「高齢者住宅での看取り」という選択肢。

ご本人ご家族と繰り返しどのような最期を望まれるか相談を重ねてきた中で、必要な医師、看護師、ヘルパー、薬剤師など様々な在宅サービスを連携させることで看取りをかなえることができました。

その中で課題と感じたことは、私たちの社会にとって「死」は忌み嫌うものとして特別視する意識が深く、介護を含めたチーム連携で「死」をオープンにする風土はまだ根付いていないことです。

医療や介護の現場でさえ、まだ「死とは何か」について現代的な解釈は十分成熟しているとはいえず、戸惑いや不安が常にあります。

いざ「死」と直面したときには、医師には死亡診断をしたり、看護師にはエンゼルケアを施すと言った具体的な役割が有ります。

しかし「看取り」は死の瞬間だけの過程ではなく、当然その前後のサポートが重要です。
介護は死の前後の心理的ケアや生活支援での技術を生かすことができます

これからは介護が看取りに携わることが増えてくるでしょう。

看取りについての知識や経験を深め、より看取りチームとして大切な役割を担っていく必要があるかもしれません。

そのためには、看取りについてオープンに意見交換するデスカフェや、看取りの経験を関わったチームのメンバーで振り返り、お互いの意見をシェアするデスカンファレンスを行う機会を増やすことで、私たちの「看取り」への見識をさらに深いものにして行く必要があると考えています。

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