35-126 標準体重60kg の大動脈石灰化を認める維持血液透析患者に対して、1日当たりの摂取量の評価を行った。改善が必要な項目として、最も適当なのはどれか。1つ選べ。
(1)エネルギー 2,100 kcal
(2)たんぱく質60g
(3)食塩5g
(4)カリウム 1,500 mg
(5)リン 1,200 mg
正解:5
【解説】
慢性腎臓病(CKD)および透析においては、明確な栄養管理基準があり、日本腎臓学会『慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年』に従って、エネルギー・栄養素摂取量を設定します。
(1)×:血液透析時でのエネルギー摂取量は、30~35kcal/kg標準体重/日とする。
血液透析はエネルギーを消費する治療です。したがって、エネルギー不足による低栄養、やせ(体たんぱくの減少)のリスクがあるため、慢性腎臓病(CKD)よりも多く、十分にエネルギーを摂取する必要があります。
この患者のエネルギー摂取量は、60×30~35kcal/kg標準体重=1,800~2,100kcal/日が適正であり、2,100kcalはこの範囲にあるため、改善の必要はないと判断できます。
(2)×:血液透析時でのたんぱく質摂取量は、0.9~1.2g/kg標準体重/日とする。
CKDのステージG3b~5においては、たんぱく質摂取量は0.6~0.8 g/kg標準体重/日に制限されていましたが、より腎機能が低下している透析時ならば、さらにたんぱく質の制限が強くなるものと考えそうです。
しかし、実際は透析を行うことでたんぱく質をコントロールしやすくなり、また、たんぱく質の摂取で腎機能に負担がかからないのであれば、体たんぱくの喪失、低栄養を防ぐためにもたんぱく質は摂取するのが望ましいため、透析時では透析導入前のCKDステージG1~5のいずれよりもたんぱく質制限が緩和されます。
したがって、この患者のたんぱく質摂取量は、60×0.9~1.2g/kg標準体重となり、54~72g/日が適正であり、60gはこの範囲にあるため、改善の必要はないと判断できます。
(3)×:血液透析時での食塩摂取量は、6g未満とする。
食塩の過剰摂取は、高血圧を生じ、高血圧は腎臓での糸球体濾過の負荷となる(いわゆる心腎連関)ため、腎機能低下時は食塩摂取を制限する必要があります。
血液透析では、高血圧における食塩制限と同じ6g/日未満が適応されます。
したがって、この患者の食塩摂取量は、5gはこの範囲にあるため、改善の必要はないと判断できます。
(4)×:血液透析時でのカリウム摂取量は、2,000mg/日以下とする。
慢性腎臓病(CKD)および透析においては、腎機能が低下するため、カリウムなどの電解質の排泄機能が低下します。そのため、高カリウム血症を生じるおそれがあり、高カリウム血症は不整脈などの重大な致死的疾患を生じるおそれがあるため、腎機能低下時では、カリウム摂取量について注意を要します。
CKDステージG3aよりカリウム摂取量を2,000mg/日以下に制限し、ステージG4・G5ではカリウム1,500mg/日以下とより厳しく制限しますが、血液透析時は再びカリウム2,000mg/日以下となります。
したがって、この患者のカリウム摂取量は1,500mg/日であり、改善の必要はないと判断できます。
(5)○:血液透析時でのリンの摂取量は、たんぱく質g×15mg以下とする。
慢性腎臓病(CKD)および透析においては、腎機能が低下するため、リンなどの電解質の排泄機能が低下し、高リン血症を生じます。
リンはカルシウムと結合するため、高リン血症ではカルシウムとリンが結合し骨以外の部位に沈着する、異所性石灰化を引き起こします。また、血中カルシウム濃度が低下すると、血中カルシウム濃度を高めようと、副甲状腺ホルモン(PTH;パラソルモン)の分泌が亢進して副甲状腺機能亢進症を生じます。そのため、透析時にはリンの摂取量を制限します。
リンはたんぱく質に多く含まれるため、透析時のリンの摂取量はたんぱく質(g)×15mgが推奨されています。
この患者のたんぱく質摂取量54~72gであるため、カリウム摂取量は54~72g×15=810~1,080mgが適正であり、1,200 mgはこの範囲を超過しているため、改善の必要があると判断できます。
設問文にある「大動脈石灰化」という異所性石灰化が起きていることも、カルシウム・リンが異常であることを示すヒントとなっています。
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