どうして介護記録は必要?
ケアマネジャー(ケアマネ)は、業務上色々な介護記録を書く機会が多く、記録を書くのもなかなか負担ですよね。
何を書けばよいかもわからないし、面倒だなーと思われる方も多いかと思います。
では、そもそも、なぜ介護記録を書かなければいけないのでしょうか?
どんなことを記録しなくてはいけないのでしょうか。
そこで今回は、主任ケアマネジャーで活躍している鐵宏之さん(鐵社会福祉事務所)が主催する『愛(AI)のある記録が書ける生活支援記録法』の勉強会(2019年2月9日@神田)をリポートします!
鐵 宏之さん
介護、ケアマネジャーによる記録とは
鐵:ケアマネが介護記録をつける理由は、①利用者のため(QOL向上)。②ケア提供施設のため、③援助者のための3つがあげられます。
まずは、介護記録は利用者へのケアの質を向上させていくためにあります。
次に、介護記録はそのケア・支援を継続していくために関連機関やチームとの間で連絡・共有するためでもあります。
そして、ケアを提供する私たち援助者のためでもあります。
介護記録が援助者のためにどんな意味があるのか
鐵:介護記録は、自分たちが利用者へどんなケアを提供したかという証拠になるというの一つあります。
そして、その介護記録をもとに自分達の提供したケアを振り返り、ケアの質向上に繋げるという研究的な側面もあります。
居宅介護支援における記録の法的な位置づけを確認してみましょう。
モニタリングを通じて把握した、利用者やその家族の意向・満足度等、目標の達成度、事業者との調整内容、居宅サービス計画の変更の必要性等について記載する。
漫然と記載するのではなく、項目毎に整理して記載するように努める。
(厚生省:『介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について』(平成11年11月12日老企発第29号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)より引用)
これは平成11年の老企第29号という厚労省通知で、介護記録はこの通知に基づいて実施されているものです。
ケアの経時的な変化、支援の経過というものを『居宅介護支援経過表』、いわゆる“第5表” に記載することになっています。
ここでは、“モニタリングを通じて把握した利用者やその家族の意向・満足度と、目的の達成度や事業者との調整内容、居宅サービス計画の変更の必要性等について記載する”とあります。
また、“漫然と記載するのではなく項目ごとに整理して記載するように努める”とあります。
医療・介護系の業務には様々な記録というのがつきものなのですが、介護記録に似た記録として、『看護記録』というものもあります。
看護記録にも目的があり、看護記録は看護実践を証明する手立てになります。
また看護記録をつけることで看護実践の継続性と一貫性を担保し、看護実践を評価することで看護の質を向上させるものでもあります。
もちろん看護記録は診療報酬上でも評価される業務です。
介護記録もこれと同じように考えられると思いますが、介護とりわけはケアマネにおいては『居宅サービス計画書』を書くことが業務として求められ、この『5表』がケアに関して何でも書けるフォーマットになっているんですね。
介護記録には何を書くべきか
鐵:ではどのように第5表に支援経過記録を記載していけばいいのでしょうか。
記録の方法にはいくつかありまして、一つは叙述記録という方法です。
叙述記録(じょじゅつきろく)
叙述記録は時系列に沿って利用者の状況や支援内容を記録していく方法です。
よく見かける方法ですよね。
何時何分に誰々さんが何々して、みたいな記述です。
介護の記録を書くときは、そのときに何があったかを思い出しながら書いていくので、書きやすい一方で、介護にまつわる情報量が多かったり、どんな根拠でケアが行われたかというのが記載されていなかったり。
つまり、記録者が介護記録を通じて何を言いたいのかわかりづらかったり、他の支援者にどういう支援を引き継いで欲しいのかがわかりにくい記述方法です。
そのために構造化して記録する方法が考え出されました。
構造化記録
構造化された記録法として有名なのものに、『問題志向型記録(POS;Problem Oriented System)』と『フォーカスチャーティング®』があります。
医療・介護におけるPOSによる記録
鐵:POS は対象となる患者や利用者が抱える問題に焦点をあてて記録する方法で、故・日野原重明先生(聖路加国際病院名誉院長)が日本に紹介したものです。
POSのうち経過記録にかかわる項目は、その頭文字をとって『SOAP形式(ソープけいしき)』と呼ばれています。
問題志向型記録(POS)は、それまでメモ書きのような形だった記録に一定のルールを与えることで、患者・利用者が抱える問題点や、その問題点に対する治療・ケア提供者の考え方を誰から見てもわかりやすい形でまとめることができるという長所があります。
その一方、POSは患者・利用者の問題に焦点を当てるため、その人の強みやその人らしさというものに焦点を当てにくいという弱点があります。
また 実践を記載する項目がないので、具体的にどんなケアを提供したかがわかりづらいというところもあります。
医療・介護におけるフォーカスチャーティング®による記録
鐵:構造化記録でもう一つ有名はものは『フォーカスチャーティング®』です。
『フォーカスチャーティング®』は1981年にSusan Lampe(スーザン・ランピー)らが開発し、日本フォーカスチャーティング®協会理事長である川上千英子先生が日本に広めた方法です。
フォーカスチャーティング®では、下記の4つの項目に分けて記録を記載します。
フォーカスチャーティング®はPOSとは異なり、患者・利用者の問断点にとらわれず出来事を記載できるという長所があります。
一方でフォーカスチャーティング®は、データの項目に本人の言葉とその他の情報の区別がないので情報が入り混じっているという弱点があります。
また、アセスメントの項目がないために提供したケアの根拠が不明確であり、プランの項目もないため、今後どうするのかという点についても不明確です。
弱点を超えた新しい介護記録『生活支援記録法』
『生活支援記録法』とは?
鐵:SOAP形式とフォーカスチャーティング®の2つの記録法の弱点を克服するべく、蔦末憲子先生(埼玉県立大学保健医学部福祉学部社会福祉子ども学科准教授)と、 小嶋章吾先生(国際医療福祉大学医療福祉学部教授)が開発した記録法が『生活支援記録法』です。
蔦末先生によれば、生活支援記録とは、“多職種協働によるチームケアにおいて、①生活支援の観点から、②観察、③支援の根拠、④利用者とその環境との相互作用、⑤利用者の生活変化、これらを基にしたケアプラン反映への根拠等が明示可能な経過記録の方法”とされます。
簡単に言えば、SOAP形式とフォーカスチャーティング®の2つの記録の良いとこどりをしようというのが生活支援記録法だと考えて見てください
生活支援記録法は下記の6項目で構成されます。
『生活支援記録法』においては、フォーカス(着眼点)により援助者にとっての関心ごと=トピックというのをまず提示した上で、そのトピックにまつわる形で情報を整理し、どうしてケアを提供したのかということを記載することができます。
『生活支援記録法』の特徴・長所
さて、実際ケアを提供する際、皆さんは前回の介護記録を読んでいるでしょうか?
読んでませんよね。
なぜ前回の介護記録を読んでいないかと言えば、「量が多すぎて読めない」か「読んでもあまり有益な情報は書いてない」からなのです。
『生活支援記録法』は、利用者との場面を振り返って着目点ごとに再構成する記述法です。
援助者は何に着目しているのかを考え(F)、その人の話(S)を聞くことやその他の情報(O)に関心が向き、援助者は援助の根拠を意識し(A)、実践を残すことができる(I)。そして、これからの支援を意識することができる(P)。
『生活支援記録法』は、援助者の思考過程そのものであるといえます。
そのため、援助者が利用者の何に注目して、どういった情報からどんなケアを提供したのかというこれまでの経緯が理解できるので、次の支援につなげることができますし、着目点と提供したケアがわかれば必ずしも全ての項目を埋める必要がないところも長所の一つです。
記録をケアに活用する方法
訪問(面談)や電話相談でのメモを記録に直し、その場面を振り返ることで、アセスメントが深まり、患者・利用者の支援の質を向上させることができます。
この振り返り=リフレクションを意識することで、ケアはより良いものになります。
また、記録では患者・利用者の問題点ばかりに焦点を当てるのではなく、患者・利用者がお茶を飲みながら世間話をする様子にこそ、その人らしい生き方や暮らしがあり、その場面こそ記録に残すことが、その人に必要なケアを提供するために必要なことです。
その点からも『生活支援記録法』は、ケアマネジャーだけでなく全て職種やサービス種別で活用できる記録法だといえます。
5表に介護記録をつけてみよう!
『生活支援記録法』についての説明を終えた後に参加者の皆さんで実際に生活支援記録法に基づいたワークを行いました。
ワークでは、直接第5表に記録を書く前に、F-SOAIPに基づいて自分が考えた場面をワークシートにメモ書きし、その情報をもとに第5表にまとめ直すという手順で行いました。
生活支援記録法を学んで
SOAP 形式は網羅性がある一方で、情報が散漫で一体何をどう考えたのかというところがわかりづらいなと思っていました。
また、介護における記録・叙述方法にはある意味独特な印象がありました。
というのも、記録や・記述において「利用者の言葉をそのまま書けばいい」「自分の判断を書いてはいけない」というような誤解がされてしまったり 記述がどこか散文的だったりと、医療と介護では記録のフォーマットが違うために、両者の意思疎通が難しいという課題も感じていました。
そんな状況のなか、SOAP形式とフォーカスチャーティング®という形式を踏まえて開発された『生活支援記録法』は、医療と介護のどちらにも理解できるフォーマットになっているので、日々の業務連絡をはじめ、 サービス担当者会議や退院支援カンファレンスなどでも活用できる共通言語となるのではと感じました。
また、今回の勉強会のファシリテーターを務めた鐵さんの解説は、実感にあふれた疑問点から立脚したもので、例え話なども非常にわかりやすく、参加者にも丁寧にケアがなされていたため、グループワークも非常に盛り上がり、充実の勉強会でした!
「記録を書くのが面倒くさい」「何で記録を書くの」「何を書くの」といったネガティヴになりがちな記録を、楽しみながら前向きに書けるようになる笑いのある勉強会です。
この勉強会は随時開催しているので、鐵さんへの勉強会を受けたい方や、鐵さんへの講師依頼はコチラのフォームから!
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