【第35回(2021年)管理栄養士国家試験過去問解答・解説】問123 臨床「消化器疾患の栄養管理」

35-123 消化器疾患と栄養管理の組合せである。最も適当なのはどれか。1つ選べ。

(1)胃食道逆流症 ――― カリウム制限
(2)たんぱく漏出性胃腸症 ――― カルシウム制限
(3)慢性膵炎代償期 ――― 脂肪制限
(4)胆石症 ――― 糖質制限
(5)過敏性腸症候群 ――― たんぱく質制限

正解:3

【解説】
(1)×:胃食道逆流症では、カリウムを制限しない。
胃食道逆流症(GERD)は、胃液などの消化液が食道内に逆流し、食道粘膜を傷害する疾患です。
下部食道括約筋部(LES)圧の低下や食道裂孔ヘルニアなどが原因となります。

胃食道逆流症(GERD)では、LES圧を低下させるような食事や、胃液が逆流しないような食事が重要です。
具体的には、脂質は脂質の消化酵素であるリパーゼを分泌する胆嚢を刺激するコレシストキニンの分泌を促進しますが、コレシストキニンはLES圧を低下させることが知られており、GERDでは高脂肪食を控えることが望ましいとされています。
そのほか、高浸透圧な食品、酸味の強い果物、カフェイン、チョコレート、炭酸飲料などの刺激物の摂取も控えることが望ましいです。

カリウムは尿中にナトリウムを排泄することを促進することで血圧を低下させるため、カリウムを制限することで、結果として血圧を上昇させることになります。

しかし、血圧を高めることで、LES圧を高めるエビデンスはないため、GERDへのカリウム制限は推奨されていません(日本消化器学会『胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015年』)。

(2)×:たんぱく漏出性胃腸症では、カルシウムなどは制限せず、脂質を制限する。
たんぱく漏出性胃腸症は、血漿たんぱく質(≒アルブミン)が胃腸から漏出する疾患です。
胃腸からの栄養の消化・吸収が低下するため、たんぱく漏出性胃腸症ではカルシウムをはじめとした栄養の制限はほとんど行いません
むしろ、漏出で失われるたんぱく質は積極的に摂取する必要があり、それに伴ってエネルギー摂取量も増やす必要があります。

ただし、脂質の消化・吸収は腸管に負担をかけるため、脂質のみ低脂肪(30~40g/日)とするとされています。

(3)○:慢性膵炎代償期では、脂肪を制限する。
膵炎では炎症により膵臓の機能が低下するため、膵臓から分泌される脂質の消化酵素リパーゼが低下します。
代償期とは、代わりの機能を償っている時期をいい、平たく言えば、まだなんとか機能している状態をいいます。

したがって、慢性膵炎代償期では、膵臓への負担を軽減するため脂肪の摂取を制限します。

ちなみに、なぜ選択肢にわざわざ「代償期」がついているのでしょうか?
それは、非代償期とは事情が異なることを示唆しているのですが、慢性膵炎非代償期では、炎症によりエネルギー必要量が増加し、低栄養のリスクが高まるため、代償期よりも脂肪の摂取を多くする必要があり、健常者並みに摂取することになります。

この場合、消化酵素薬などを併用することで、リパーゼの低下をフォローします。

(4)×:胆石症では、糖質制限を行わない。
胆石症は、胆嚢や胆道に結石ができることで炎症を生じる疾患です。
胆石の原因には、コレステロール、ビリルビンカルシウムが大半を占めています。

コレステロールによる結石は、脂質やコレステロールの過剰摂取により胆汁中へコレステロールが漏出して析出します。
また、ビリルビンカルシウムは、低栄養や低たんぱく質によりビリルビンカルシウムが増加し、析出します。

したがって、胆石症ではコレステロールが多く含まれる動物性脂肪の摂取を制限することがポイントです。
脂質は、急性期においては脂質が胆嚢の収縮を刺激するため、摂取を控えます。
しかし、回復期~無症状期では脂質を厳格に制限することで脂溶性ビタミンが不足して胆嚢の収縮が弱まり、胆汁が停滞することで胆石を生じやすくするため、脂質自体は20~25%Eと通常程度の摂取が推奨されています。

長くなりましたが、では糖質はどうなるかといえば、過度の脂質や糖質の摂取は胆石症のリスク要因となるとのエビデンスがあるものの、各種ガイドラインでは糖質制限は推奨されていません
むしろ、消化しやすい栄養素のため、急性期などでは絶食からの静脈栄養や、症状回復時には糖質中心の流動食が薦められます。

(5)×:過敏性腸症候群では、たんぱく質などは制限しない。
過敏性腸症候群(IBS)は、主にストレスを原因にした消化管運動の異常による症状を生じる疾患です。
症状としては、下痢や便秘、腹痛などのほか、頭痛や疲労感などの消化管症状以外もみられます。

過敏性腸症候群(IBS)では特に厳しい食事制限は推奨されていませんが、発酵しやすい炭水化物がガスを生じることで腹部膨満感や腹痛を誘発するおそれがあり、海外ではFODMAP療法としてこれらが制限されています。

下痢型のIBSでは、腸管の蠕動運動を刺激するような高浸透圧な食品(アルコールなど)や炭酸飲料、カフェイン、香辛料などの摂取を控えるのがよいとされます。

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